大阪地方裁判所 昭和41年(ヲ)2985号 決定 1966年11月18日
申立人 東洋醸造株式会社
右代表者代表取締役 小川三男
右代理人弁護士 阿部甚吉
太田忠義
滝井繁男
岩崎光太郎
相手方 山本フサノ
<ほか三名>
右四名代理人弁護士 赤木淳
主文
相手方らが、申立人に対する昭和四一年(ヨ)第四〇〇六号仮処分申請事件の執行力ある命令正本に基いて、昭和四一年一〇月一二日に大阪地方裁判所執行吏向井量平により別紙目録記載の物件に対しなした仮処分の執行は許さない。
本件申立費用は相手方らの連帯負担とする。
理由
一、申立の趣旨
主文第一項と同旨。
二、申立人の主張の要旨
1 相手方らは、昭和四一年一〇月一一日に当裁判所において、申立人に対し、次のような趣旨の仮処分決定(以下第二次仮処分と略称する。)を得た。
(一) 別紙目録に記載した物件について、申立人の占有を解いて、これを相手方らが委任する執行吏に保管させる。執行吏は申立人の申請があった場合には申立人が右物件の現状を変更しないことを条件として申立人が使用しているままで保管することができる。
(二) 右の各場合に、執行吏はその保管していることを公示するために、適当な方法をとらねばならない。
(三) 申立人は右物件の占有の移転その他一切の処分をしてはならない。
(四) 申立人は右建築工事を続行してはならない。
2 相手方らの委任に基づき主文第一項掲記の向井執行吏は同月一二日に同項記載の債務名義に基いて別紙目録記載の物件に対し仮処分の執行をなした。
3 しかしながら、申立人はこれより先の同月七日に相手方らを被申請人とする所有権に基づく妨害排除請求権を本案とする当庁昭和四一年(ヨ)第三九二六号仮処分命令申請事件につき、次のような仮処分決定(以下第一次仮処分と略称する。)をえている。
(一) 相手方らは別紙目録記載の土地について、譲渡・質権・抵当権・賃借権の設定その他一切の処分をしてはならない。
(二) 相手方らは別紙目録記載の土地に申立人が建物を建築することを妨げてはならない。
4 そこで、両個の仮処分の内容を比較するとき、第二次仮処分は第一次仮処分に牴触する事項を内容する仮処分であって違法である。したがって第二次仮処分命令に基づき別紙目録記載の物件に対し為した仮処分執行は許さない旨の裁判を求める。
三、当裁判所の判断
1 申立人主張の1ないし3項の事実は本件記録上明らかである。
2 両個の仮処分の内容牴触の有無について。
第一次仮処分命令の主文では、本件土地に対する相手方らの処分の禁止のほかに、「相手方らが、申立人の建物を建築する作業を妨害してはならぬ」旨が命ぜられており、第二次仮処分命令の主文では、別紙目録記載の未完成建物及びその敷地に対する申立人の占有を解いて執行吏に保管させたうえ建築工事の続行を禁止することを命じている。そこで、両者が牴触するか否かは、結局において、第一次仮処分主文第二項の「建築作業の妨害禁止」をどう見るかにかかっている。
そもそも、不作為を命ずる場合に二態様があり、第一は、債務者に、債権者または第三者のなす一定の作為を認容・甘受することを命ずる場合と、債権者または第三者の行動とは無関係に、債務者に一定の積極的な行為をなさないことを命ずる場合である。本件のように建築の作業を妨害してはならないことを求めることは認容・甘受すること、すなわち第一の態様であり、建築続行禁止は第二の態様にほかならない。換言すれば、第一次仮処分によって相手方らは申立人のなす建築作業を認容・甘受する義務を仮定的・暫定的にではあるが、創設されたものと解するのが相当である。そうすると、別紙目録記載の物件に対する申立人の占有を執行吏に移し、建築続行を禁止する第二次仮処分は、主文第一、二項第四項の内容において牴触するということができる。
3 しかるときは、第二次仮処分は、第一次仮処分に対する関係において、主文第一、二項第四項の部分が違法といわねばならないから、右仮処分命令第一、二項に基づき別紙目録記載の物件につきなされた執行処分は許されないというべきである。よって、申立費用の負担につき民訴八九条・九三条一項但書、を適用して主文のとおり決定する。
(裁判官 本井巽)